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▼館長裏日記 令和5年11月18日付け

■ことわざの話
 いつものことわざシリーズですが、今回はたいしたオチにもならなそうなので、裏日誌に回します。鎧にまつわることわざとしては、「衣の袖から鎧が見える」というのがあり、本音が見え隠れする、という意味ですが、その由来は平家物語にあるとのことです。
 「物語要素事典」の「重ね着」(?!)の項目には、「武士を召集し法住寺の御所へ押し寄せようとする平清盛のところへ、嫡子重盛が諌めにかけつける。清盛はあわてて鎧の上に法衣を着、胸板の金具が見えるのをひき隠しつつ対面」したとあり、実はあわててしまいバレバレであるという話なわけで、これは「頭隠して尻隠さず」に近い感じです。
 ちなみにこの「重ね着」の例示では他に、「法衣の上に鎧を着る。」、「死装束の上に羽織を着る。」、「他国の軍服の下に、自国の軍服を着る。」というのも載っていて、これを全て「重ね着」という括りにしてしまっているのがすごいところです。
 それはさておき「衣の袖から鎧が見える」というのは、私はてっきり「腹に一物をもっている」という意味合いなのかなと思っていました。ここで「一物」と言うと、あの神様にお願いする唄が思い出されますが、いや、ここでやめておきます。さすがに当館にもコンプライアンスというものが、はい。

■甲冑と映画の話
 これは別にディスるわけではないのですが、「ダースベイダーは、伊達政宗の甲冑」説と「上杉謙信の甲冑は、全身銀色の南蛮胴」説は、いずれも有名ではありますが、事実ではないという話です。
 これはあくまでネットによる確認情報なのですが、まずは、伊達政宗の甲冑の話から。スター・ウォーズの制作関係者から黒漆五枚胴具足を所蔵している仙台市博物館に写真の提供依頼があり、また、1997年に発行された"STAR WARS−THE MAGIC OF MYTH−"という本の188−189ページには、ダースベイダーと伊達政宗の黒漆五枚胴具足の兜部分の写真が並んで紹介されているとのこと。ここまでは事実です。しかし「ウキペディア」によると、「ルーカス博物館の館長のレイラ・フレンチによれば、ジョン・モロが役者をロンドンのコスチュームショップに連れて行き、そこで黒いオートバイ・スーツと黒いマントを見つけ、それに第一次世界大戦中のドイツ軍のガスマスクとナチスのフリッツヘルメット(シュタールヘルム)をモデルにしたヘルメットを追加したものであるという」、とのことです。
 次に上杉謙信の甲冑について。「Yahoo知恵袋」のベストアンサーには「上杉謙信が実際に着用した鎧は何点か現存していますが、その中には南蛮胴は一つもありません。日本での南蛮胴は、南蛮との交易が盛んになったことから見られるようになりますが、安土桃山以降です。また、記録上でも謙信に纏わる南蛮胴は存在しません。つまり、1570年代に死去した謙信が着た可能性はかなり低いでしょう。上杉謙信と南蛮胴との関係ですが、映画『天と地と』で上杉謙信は南蛮胴を使用していました。(中略)そして、大河ドラマ『風林火山』では、(南蛮胴を)上杉謙信を演じるGACKTさんが着るに至ったと推察します。」とのことでした。
 それにしても最上義光の甲冑は、映画でもTVドラマでも、ましてSFでも取り上げられるわけでもなく、某大河ドラマでは「関ケ原の戦い」に突入するも名前すら出てくる気配がなく、「どうする」以前の状況ではあります。しかしここは、これを改めていくべきではないかと思い、まずはドラマのタイトルを考えてみました。例えば、「それにしても義光」というのはどうでしょうか。やはり、いけませんかね。失礼しました。あと、「ヨシミツじゃないよ、ヨシアキだよ。」という番組名も考えましたが、あっ、許してください、ごめんなさい。

■ナレッジマネジメントの話
 学芸員さんの間で、刀剣や甲冑についての話をするとき、品物や資料の知見については多くを語らず、どこの誰が何を持っているという情報交換に熱が入ります。そしてそれは家族関係の話であったり健康状態の話であったり、言葉としては何なのですが、いわゆるナマモノの情報です。つまり、いつ出物がでるかと虎視眈々に、とまではいかないまでも、そんな情報のアップデートを図っているわけです。それは学芸員同士だけではなく、収蔵品の運搬を請け負う業者さんであったり、刀剣や甲冑を趣味としている方などにも探りが入ります。収蔵品の入手にあっては、単に金銭の勝負だけではなく、タイミングが重要であり、これまでの付き合いも当然大事になります。これが寄託や寄贈ということにでもつながれば、学芸員の面目躍如といったところでしょう。
 しかも刀剣や甲冑は、様々なレベルのマーケットが形成されていて、しかもそれは国外にも広がっていて、しかも外国のコレクターには結構な金持ちがいて、それが相場を引き上げる原因にもなっていたりして、こういうことからも、当館のような資金に乏しい弱小博物館では太刀打ちできないわけでして。やはりここは、普段からの不断の情報収集で勝負するしかありません。
 ただし、このような情報のほとんどは、個人レベルの暗黙知であり、これをどう形式知に変換して、作業の効率化や知識の共有を図るか、いわゆるナレッジマネジメントが組織の課題ではあるのですが、逆に学芸員の存在価値もそこにあるわけで、難しいところではあります。いくらDXだ、AIだ、と言ってみても、やはりナマモノの情報は、まずはマンツーマンが基本とは思いますが、最近はそれもSNSなどで知ることになる場合もありまして、悩ましいところではあります。そう言えば、かの長寿スパイ映画にもこんな組織課題を背景にした話がありましたが、映画と違いこちらには、カーアクションや爆破シーン、そしてお色気シーンというのもありません。

2020/11/18 17:15 (C) 最上義光歴史館
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