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▼文禄三年の獅子頭

文禄三年の獅子頭/
だいぶ報告が遅くなったのだが、去る9月27日に最上義光公から拝領の獅子頭を念願叶い拝見する事
が出来た。文禄三年といえば西暦1594年、今から424年前の古い由緒ある獅子頭は稀である。
図書館の古い資料に郷土史家 川崎浩良氏の著作一文にこの獅子頭について書かれていた。それ以後
この獅子頭については表には出なかった。餌鷹神楽の最後の継承者 故三浦健治氏の奥様から、その
話が出て上山の月岡城御用太神楽の太夫 佐藤多美夫氏の話から和田幸太夫家の所在が明らかになっ
た。

㊀餌鷹神楽の太夫元三浦家は大火で焼失する以前は旧六日町にあり「霞城太神楽」と称し代々山形城
の御用を勤めてきた古い伝統を持つ神楽である。延文元年(1356年)に斯波兼頼の山形城築造に際し
初代和田幸太夫が城の地固めの為に神楽を舞ったのが始まりと伝えている。和田氏は、兼頼の時代に
水戸から移って来たといわれ、㊀の家紋を用いることから江戸の丸一太神楽の内の散学をしたもので
ある。散楽(さんがく)とは、日本の奈良時代に大陸から移入された、物真似や軽業・曲芸、奇術、
幻術、人形まわし、踊りなど、娯楽的要素の濃い芸能の総称。日本の諸芸能のうち、 演芸など大衆芸
能的なものの起源とされている。

和田氏は山形築城の地固め神楽以来、代々山形城の御用を勤めるようになり、今に伝える獅子頭は最
上義光から奉納されたと伝えられ、獅子頭の内部に文禄三年八月十五日、奉納最上出羽守義光 稲荷
宮太神楽」の刻銘がある。また、この獅子頭には寺社奉行並びに両所宮佐藤斎宮の添書があり「烏帽
子白張指貫致着用、神事可勤仕者也。仍而許状如件、雑掌印、文化十二年巳亥年(1815)四月 和田
忠太夫殿」という許状もあるが、この宛名の和田忠太夫は、霞城神楽の太夫であったと思われる。
和田氏は城の鬼門に当たる六日町の一角、極楽寺門前の餌鷹町に屋敷を与えられ「神楽屋敷」と称され
て、士分の扱いを受けていたという。また「山形雑記」(山瀬遊圃著)巻之上に、「太神楽師 六日町
帯刀 和田幸太夫」とある。なお同書に、次の如く餌鷹神楽の家中回りの記事が見える。

神楽は元来、神の心を和らげる鎮魂の音楽であったが、その中には神事芸も含まれ「古事記」に見える
天の岩戸の天鈿女命(あめのうずめのみこと)の舞が始まりであるという説もある。それに平安時代に
大陸から伝来した獅子舞が融合して、神楽というと獅子舞のこととなり、ひいては、獅子頭のことも言
うようになってしまった。また、獅子は霊力の偉大ななるものとされているから神が獅子の姿をかりて
人間界を訪れ、祝福して歩くという形を表したのが獅子舞であり、悪魔払い火伏せの神としての信仰が
厚い。
                               (宮尾しげを著「日本の民俗芸能」)
餌鷹神楽は一人獅子舞で、その他、神楽七つ芸といわれる曲芸がある。七つ芸はすなわち曲バチ・立て物
・皿回し・オカメ・万歳・鳥刺し舞・和唐内で、これが一般に人気があった。構成は五人から七人で、獅
子舞一人他に曲芸数人、囃子方は三味線・笛・太鼓・鉦などであるが、餌鷹町の時代は何時も弟子が二・
三十人ぐらいおり県内における獅子神楽の本家として栄えていた。当代の太夫三浦健治氏は和田家の娘の
子、三浦肇(昭和47年没)の嗣子(しし)で、亡き父肇氏の後を受けて餌鷹神楽の二十一代目を継いでいる。





さて、和田家は27日は午後から村山民俗学会の市村氏にご同行いただき獅子頭拝見に和田家にお邪魔した。
桐の保管箱の蓋には、なんと運慶作と墨書がある。400年の年月を超えて来たとは思えない色艶、煤けた
ボカシもあり貫録を感じさせる。大きめの眼と独特の形の眉が印象的で破損も少なく、すこぶる状態が良
い。内部には刻銘がしっかり刻まれて残されていた。何とも言えない色艶は餌鷹神楽太夫の三浦氏が大事
な神楽依頼の際借用し用いていた事もあるだろう。




和田家は明治四十四年の山形市北部大火で全焼したが、この獅子頭だけ難を逃れ運び出され「生き獅子」と
呼ばれる由縁である。以前は毎年正月元旦に鈴川地区の印鑰神明神社で舞初めをし、四月末日に蔵王温泉の
酢川神社で打ち止めをするまで、各町内を回って悪魔祓いをしていた。
                    川崎浩良著「山形市の歴史」後編、三浦健治氏談より引用

今回、川崎浩良著の文章から発掘した幻の最上義光公から拝領の和田幸太夫の獅子頭は、山形市の歴史的文
化遺産として確認された。今後、公の機関で400年前の時代の証人として後世に残すことが出来るだろう。
少しだけ肩の荷が下りたような錯覚に陥っている。
2018/11/16 08:24 (C) 獅子宿燻亭7
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