▼老兵の半生(人の情け)2008/10/06 08:05 (C) 株式会社吉田製作所
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50前後の運転手のおじさんが、声をかけてくれました。
「上野駅に行きたいのですが、方向がわからない」
「歩いて行きたいのですが、どっちにいけば
いいのでしょうか」
すると「歩いてなんて、無理だよ、田舎に帰るのか」
と聞かれて、三人とももうべそをかいていました。
三人とも、山形へ帰る片道の汽車賃の他は、合わせても
いくらもお金は、もっていなかったのです。
私は汽車賃をのこした、小銭を集めて「これで上の駅まで」
乗せてっていただけないでしょうかと、頼んでみました。
一瞬黙ったその運転手は、「乗りな」と言うなり黄色い
ルノーのドアーを、開けて荷物を積んでくれました。
白々とした朝もやの、町を走りながら彼は、
「どこから来たの」「山形からです」「いつ来たの」
「一週間前です」「職場が合わなかったのだね」
「おじさんは、岩手県が故郷だよ」と言いながら
「上野駅に着いたら、一人は荷物の番をして、二人で
時刻表と行き先をよく確認して、切符を買いなさい」
色々と教えて、くれました。
当然タクシー代には、程遠い料金だったと思います。
彼は、其のことには一言も触れずに、葛飾堀切町から
上野駅まで、乗せてきてくれました。
最後に「東京は良い人だけではないよ、気をつけな」
其の言葉をのこして、走り去って行きました。
私も、其の時のおじさんの様な、大人になりたかったのに
まだ、ほど遠い存在であります。
その後一ヶ月ほど、故郷で過ごし、硬い決意のもと
再度上京したのでした。逃げ帰った二人の仲間とは
いまだ再会を果たしておりませんし、どこにいるのかも
解っておりません。
つづく