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▼虹色の里からー米の暴落

虹色の里からー米の暴落/
「物干し竿はいかがですかぁ。20年前のお値段でぇす。」
洗濯竿を積んだトラックが、ボリュームを一杯に上げてやってきた。田んぼの種まきの準備をしていた午後のことだ。

 「20年前と同じだとぉ?何を言っている。こっちは1万円も安いぞ。」
 作業小屋で一緒にお茶を飲んでいた富さんが、小さくなっていくトラックを見ながらいつになく語気を強めて言った。

 富さんが言うのは米の生産者手取り価格のことだ。昨年の米値段は、一俵あたり1万2千円から3千円の価格。今から20年ほど前の一等米の手取り価格が、2万2〜3千円ほどだったから、1万円は下ったことになる。米作り農家にとっては深刻な安さだ。ここ数年間でガタガタッときた。そのうえ約3割の減反。機械代や肥料代は当然のように上がっているから、昨年の場合、ほとんどの生産農家にとって利益がなかったか、赤字となっているはずだ。

 「だけどこれはまだ序の口だ」と知人の農政ジャーナリストはいう。「米価はまだまだ下がるよ。数年のうちに1俵あたり一万円は切るだろう」と妙に自信たっぷりに断言した。米価暴落の背後にあるコメの輸入自由化はこれからが本番だからだ。

なぁ、おい・・と富さんの話は続く。
「消費者は、ここまでの安さを本当に求めているのだべか?農家が米作りをあきらめるほどの安さをよ。」

 さぁーて、どうだろう。でも米作り農家にとって昨年の手取り価格が数年続くようなら大変な打撃になるだろうし、1万円を切るようなことになれば決定的だろう。
山形県の農業は、風景を見ても分かるように、水田を中心に営まれている。だからその影響は甚大だ。米作りだけでなく、農業そのものに見切りをつけていく人たちがたくさん出てくるにちがいない。

「それで困るのは消費者で、農家はいっこうに困らない。自分で食べるものだけをつくり、金は他に働きに出て稼げばいいのだから、という人もいるよな」
冨さんが反論した。
「そうとも言える。だけど農家にとってもきびしいぞ。公共事業はない。企業も人を雇わない。いま確実に収入として計算できるのは年寄りの年金だけだよ。うちの年寄りもますます勢いづくよなぁ・・」
冨さんはそう言い残してかえっていった。

いま、農業で働いている人の年齢層のピークは70〜74歳で、この層が日本の農業を支えているというのはよくいわれるが、農家の家計もまたこの層に支えられていくというわけか。うーん・・・。

まてまて、あきらめるのはまだ早い。必ず道はあるはずだ。さぁ、種まきにかかろうか。


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