ヤマガタンver9 > 第23期生 修了証書授与式 学校長式辞

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▼第23期生 修了証書授与式 学校長式辞

 二十三期生のみなさん、本日、無事卒業を迎えられたこと、心からお祝い申し上げます。在校生とともに、教職員一同、みなさんの門出を祝福致します。
 
 未だ収まらない新型感染症のため、本日は、ご来賓が出席出来ず、保護者の方々も同席の人数を制限させて頂きました。このような形になったことは誠に残念ですが、ご理解頂きたいと思います。卒業生のみなさんは先日の卒業制作展を見ても分かる通り、入学前と比べて大変大きく成長しました。胸を張ってこの伊佐沢の山から巣立って行って下さい。

 さて、皆さんに送る言葉として、松尾芭蕉の作品を取り上げます。ご存知の通り、芭蕉は、江戸時代前期の俳句を詠んだ人で、各地を旅して句を作り、現在の山形県にも訪れて、山寺立石寺や最上川を題材とした句を詠みました。しかし、今日は少し変わった句を挙げます。

 旅に病んで 夢は枯れ野を駆け巡る

 これは芭蕉が晩年、旅先で詠んだもので、病に伏せって動きはとれないなか、寝ている際の夢では冬の野原を駆け巡るほど、旅をしたいという心からの想いが表れています。
 寂しい雰囲気があるので、今日の晴れの日には合わないような感じもしますが、敢えて取り上げました。その理由をこれからお話します。
 ところで私事ですが、仕事の出張を含めて、知らない土地に出かけるのが大好きで、少しでも時間があるとそのまちや集落を見て歩きます。しかし、この一年、我々は遠出を控えざるを得なくなり、まして、旅行で各地を廻ることは出来なくなりました。芭蕉は自分の病気で動けなくなったので、現在の我々とは状況が異なりますが、 自由に遠出出来ないということでは同じです。むつや能代など東北各地で出会った方々はどうしているだろうかと、時折、私は思い出します。正に夢は枯れ野を駆け巡るです。今しばらくは我慢するしかないでしょう。しかし、社会が感染症を乗り越えることができたら、すぐに旅に出たいと思います。何の為に?建築を調べるためというほど、大袈裟なことではありません。いつもと違う場所は自然環境が異なる。環境が異なれば、人々の生活も、そして建物もまちも異なる。その違いが面白いし、自分の物の見方に新しい角度を与えてくれるのです。特にこれから建築を深く学んでいく卒業生の皆さんにとっては、様々な人々の生活に触れることがとても大切です。是非、仕事の合間を縫ってでも旅に出て、人々に出会い、まちを歩き、その違いを自分の引き出しに一杯詰め込んで下さい。
 もう一つだけ芭蕉の言葉を紹介して締めくくりたいと思います。

 春に百花あり 秋に月あり 夏に涼風あり 冬に雪あり
 すなわちこれ人間の好時節

 これは中世の宋という国、現在の中国ですが、その国にいた僧侶が作った詩を元にしているとのことです。春にたくさんの花、秋には月、夏に涼しい風、冬には雪があって、これらが我々にとって良い時期だということです。取り立てて特別なことは言っていないようです。自然を賛美しているだけの詩のようにも読めます。しかし、自然にある事柄をあるがままに受け取るということを普段、我々はどれ位しているでしょうか。道ばたの花や、夜空の月を立ち止まってじっと眺める余裕が普段の生活にあるでしょうか。皆さんの目の前には、これからは仕事を含めて、生きていく中で様々な問題が起こるでしょう。その時も慌てず、自然のままに受け入れて(この場合は「じねんに」と言った方が良いかもしれませんが)、素晴らしいと思ったことを心にとめ、つまらならいことには左右されない、そういう心にゆとりを持った生き方をして欲しい。芭蕉の言葉を借りて皆さんにこう伝えたいと思います。

 復興から十年経った東北では、ハード整備は着実に進みましたが、未だ復興は達成されていないと感じている住民は少なくありません。そこには建築やまちを整備するだけでは解決出来ない様々な問題があります。どうすれば人々が納得出来る復興が出来るのか。被災した時に、建築に携わる人間は何を考え、どのように行動すれば良いのか。これは卒業生の皆さんに課せられた課題でもあります。一人ひとり、しっかりと考えながら建築の世界を歩んで下さい。

 卒業生諸君の更なる成長を期待しつつ、改めてお祝いを申し上げて、式辞と致します。本日は誠におめでとうございます。


 令和 三 年 三 月 十三 日 
     
                  山形工科短期大学校 学校長 小幡 知之

2021/03/15 09:43 (C) 山形工科短期大学校
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